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令和の米騒動
2024 年、いつにも増して暑い夏。スーパーの店頭からコメが消えました。新米が出回るころには値段が跳ね上がっていました。「コメはこの先どうなってしまうのか」。コメをつくる人たちは実際のところ何を思っているのでしょうか。
「稲作農業は本当に大変な状態。多くの農民がものを言わずに消えていく。どれだけ大変かが世に伝わっていない」…。
10円で誰が暮らしていけるのか
コメ農家など1経営体当たりの2022年の収入は補助金を含めて378万円。肥料代や光熱費なの経営費を除けば手元に残る所得は1万円、平均労働時間で割った時給はわずか10円です。稲作農家は特に高齢化が顕著で、20年後に今の60代以上が引退してしまうと現在の1 割台にまで激減すると見込まれています。
はじまりは三里塚
山形県長井市に住む菅野芳秀(かんのよしひで)さん(75)。身長191センチ、体重100キロほど。農業に夢や希望は見出せず東京の大学に進みました。成田空港建設に対する反対運動に参加、「農民にはなりたくないが、農業を侮られたくない」…。後に妻となる佐智子さんとはその砦で出会いました。子どもから老人まで村をあげて抗っている農民の姿に共感し、教職に就きながら、週末は援農のため三里塚に通いました。1971 年3 月、とりで砦にこもった芳秀さんは多くの農民、支援学生らとともに逮捕されます。
「七転八倒」50年
1年遅れて大学を卒業した芳秀さんは帰郷し就農。以来50年。減反を拒否して地域で孤立、地域の減農薬栽培からの農薬の空中散布廃止。生ごみをたい肥にし地域の台所と田畑をつなぐ「レインボープラン」の立案・稼働…。「七転び八起き」ではなく「七転八倒」と振り返ります。レインボープランは30 年近く今も続き、42カ国かっら3 万5千人以上が視察に訪れました。「循環」は菅野さんの農業の軸でもあります。ニワトリは春から秋にかけては放し飼い、小屋の中でもケージではなく平飼いです。
国会議員、高校生、大学生へ語る
「本当にいなくなっているんだから農家が。やめさせられてクビになって。知らなかったとは言わせないよ」、菅野さんは講師として招かれた勉強会で国会議員に声を荒らげました。国が進めている大規模な区画整理事業の陰で大規模化しない、できない農民は田んぼから去っています。農村体験で東京から訪れた高校生には農道に敷いたビニールシートの上で、「朽ちていく柿の実から芽吹く柿の種のように新たな可能性をはらんだ希望の道を自分でつくっていくんだ」と語りかけます。
みんなが「農」に関わる
客員教授を務める都内の大学では学生たちに呼び掛けました。「日本から農民がいなくなったとしても、たくさんの市民が農に関わる。『国民皆農』こそ長続きする人間社会、農との関係性だと思う」。家族農業、兼業農家も大規模法人も、そしてベランダ農業も、みんなが土と関わり、みんなが命の世界と関わり、農を守っていく。消えゆこうとする農民の声に耳を傾けます。
語り 余 貴美子
女優。神奈川県出身。劇団活動を経て、映画・TVドラマへと活動の場を広げる。08年、第63回毎日映画コンクール田中絹代賞受賞。また同年「おくりびと」、09年「ディア・ドクター」、12年「あなたへ」で、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を三度受賞するなど受賞歴も多い。19年には紫綬褒章を受章している。