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色素性乾皮症は、紫外線を浴びると皮膚に火傷のような症状が出て、やがて皮膚がんを患ってしまう病気で、神経障害も伴い30歳位までしか生きられないと言われている。日本では500人しかいない難病だ。
静岡県富士市に住む清 麟太郎(せい りんたろう)君(17)は、生後10ヶ月の時にこの病気の宣告を受けた。出会った当時、6才だった麟太郎君は日中こそ日光を遮断する帽子や服が離せないものの、日が沈むと外に出て自転車を軽やかに漕ぎ、大好きシャボン玉に興じる少年で、とりわけ祖父・利男さんの新聞配達を手伝うのがお気に入り。
しかし、小学校高学年になると病状は明らかに進行した。自転車には乗れなくなり、歩行器を使うことが多くなった。言語発達も遅れが生じ、最近では補聴器無しでは音も聞き取れない。12歳で歩行困難が出現し、15歳で起立不能、16歳で車椅子使用が平均的だという機能低下の経過をほぼ時間通り辿っている。麟太郎君にとって「生きる事」とは死に向かっての確実なスケジュールを辿ることでしかないのだ。
そんな中、小学校最後の持久走大会は特別なものとなった。周囲の誰もが途中で棄権すると考えていたが、同級生から大きく離されながらも、2キロを最後まで走り切った。「持久走大会を走り切ればまた1年頑張れる」と願う家族全員の期待に応えた。
治療方法が無い難病。だからこそ家族は、記憶として残せるうちに多くの思い出を作ろうとしてきた。毎年、日が暮れてからサクランボ狩りに出かけ、祖母は孫の生きた証を残そうと彼の言葉を綴った本を作った。手話を勉強する兄弟、優しく寄り添う父と母。
そして、今・・・。17歳になった麟太郎君は車椅子を使うことが多くなり、大好きだった新聞配達はできなくなった。家族との会話も一層困難になっている。今後、運動機能の低下が進むと、やがて嚥下困難、呼吸困難による気管支切開が心配される。
寄り添い続けている家族の状況も変わってきている。祖父母は老い、以前のように麟太郎君の面倒を見るのが難しくなり、家の至るところには手すりが取り付けられた。兄・龍太郎くんは大学2年、弟・道太郎くんは中学2年となり、それぞれの生活もでき始めている。だが家族は、この17年を振り返った時、「楽しかった」「幸せだった」と言う。
限られた麟太郎君の時間。もし、生まれた時から「生きる時間」が決まっているとしたら、人は、家族はどのような人生を歩むのか。
SBSが取材した10年の記録から、家族のあり様と生きる事とは何かを問う。
リリー・フランキー
イラストレーター、小説家、絵本作家、デザイナー、俳優、作詞家、作曲家などジャンルを問わず幅広く活動。2006年、長編小説「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」で本屋大賞を受賞。2019年、第42回日本アカデミー賞・優秀主演男優賞を受賞(万引き家族)
(所属 ガンパウダー有限会社)
編集後記
ディレクター: 中村潔 静岡放送報道制作局(SBSメディアビジョン)
麟太郎くんは外出する際、手袋をはめ、顔全体を覆うように帽子を被ります。公園での取材中、その姿を子供たちに冷やかされた事がありました。
涙を流し感情的になる母親。その様子を見て、「このまま撮影を続けてもいいのか」と悩みました。もしかしたら、テレビカメラがあったから、彼らも面白半分にふざけてしまったのではないのかと取材の難しさを痛感した場面でもあります。
祖母は、日常会話の中で心に響いた麟太郎くんの言葉を綴った「りんくんのうた」という絵本を作りました。孫の生きる証と色素性乾皮症の現実を知って欲しいとの思いが込められています。
色素性乾皮症(A群)は国内におよそ500人の患者がいると言われており、30歳で体の機能をほぼ失ってしまう難病です。現在、有効な治療方法はありません。しかし、この番組を通して、一人でも多くの方に現状や家族の思いを知っていただくことで、何かが変わるきっかけに繋がって欲しいと願っています。