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「ポケ」ットサイズの「たん」バリン、「ポケたん」。プラスチック製スティックのしなりを利用して、片手で振るだけで簡単に鳴らせる手のひらサイズの楽器です。
発明したのは、富山市の小林泉さん(67)。自動車修理を営んでいたときの技術を生かして、一つ一つ手作りしています。発明のきっかけは2013年、脳梗塞になったことでした。音楽が大好きで、大学生のときからバンド活動を続けていた小林さんは、左半身が麻痺して動かなくなり、演奏ができなくなるかもしれないという絶望感を抱きます。そんな中、病床で目にした「ある物」が発明へとつながっていきます。
さらに、音色にもこだわり、大手楽器メーカーのタンバリンの鈴を使いたいと考えた小林さんは、静岡県の複数の楽器メーカーと交渉を重ねました。その結果は・・・。
いま「ポケたん」は、その手軽さや音色などにほれこんだ人たちによって広まり、ピアノ教室、カラオケ、ライブ会場など、富山県内外のさまざまな場面で使われています。
実は小林さん「ポケたん」の前にも「ピカソニック」という楽器を発明していました。目が不自由な人には音で、耳が不自由な人には光で音を伝えることができるだけでなく、手や足が不自由な人でも演奏を楽しめるオリジナルの楽器です。
また楽器のほかにも、浴槽に手足を固定する用具や足の運動不足解消のためのステッパーなど、不自由になった体でも暮らしやすくするための発明品をいくつも生み出してきました。
病を乗り越え、愛する音楽を誰でもいつでも楽しめるように、そして自分らしく生きられるようにと発明を続ける男性の物語です。
編集後記
ディレクター:中水康之(北日本放送)
おととし公開され、大ヒットしたアニメーション映画「スラムダンク」。私のような「スラムダンク」世代はもちろん、原作を読んだことのない人にも知られている名言といえば、安西先生の「あきらめたら、そこで試合終了ですよ…?」。
今回の主人公、小林泉さんを取材する中で、何度も聞いた信念「あきらめたら、もったいない」。その言葉を聞くたびに、スラムダンクのあのシーンを思い出していました。
他にも、「自分が体験した不都合を発明に生かしたい」、「一時の眉唾な発明よりはしっかり特許、実用新案登録して未来にメッセージを残したい」など、いつも笑顔の小林さんが、信念を発する時だけは、表情や目が変わったことが印象に残っています。
番組のタイトル「人生謳歌!」は、学生時代から音楽好きで、病を乗り越えながらも前向きに人生、暮らしを楽しんでいる小林泉さんにぴったりと感じ、いくつかの案の中から、迷うことなく、このタイトルに決めました。
小林さんとの出会いは、今年1月に開催された私が住む町内の新年会で、たまたま席が隣同士になったことです。私は地域との関わりを煩わしいと考えていた時期もありましたが、終の棲家を構え、気持ち新たに参加したところ、同じ町内で暮らす小林さんがたまたま隣の席となり意気投合。病気の後遺症を全く感じさせず、初対面の私にも気さくに声をかけてくださいました。
奇遇でミクロな出会いからの番組制作でしたが、「ポケたん」が音楽を愛する人たちに限らず、全国や世界にマクロに広がることを期待しています。
そしてなにより「あきらめたら、もったいない」という人生の教訓がまたひとつ増えた、小林さんとの出会いに感謝したいです。
番組情報
(有)アイキャプス
【メール】info@i-caps95.jp