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宮崎空港から車でおよそ3時間。曲がりくねった山道を進むと「日本三大秘境」のひとつとされる宮崎県椎葉村(しいばそん)があります。村の9割以上が山林で人口はおよそ2500人。高齢化率は45%を超えています。もちろん、コンビニは1軒もありません。村の中心部からさらに山奥へ車で40分進んだところにある尾向(おむかい)地区には、ユニークな一級建築士がいます。「椎葉のトム・ソーヤー」こと尾前一日出(おまえかずひで)さん(63)。
尾前さんは地元で設計会社を営むかたわら「大人も子どもも楽しめる遊び場を作りたい」と、7年前から、地区の子どもたちと一緒に小学校跡地に森の遊び場を作っています。その名も「森のゆうえんち」。いつしか子どもたちはそう呼ぶようになりました。
これまでツリーハウスやすべり台、ブランコ、ジップラインなど、子どもたちが遊んでみたい遊具を毎年1つずつ、一緒に作ってきました。
「大人も子どもも楽しめる遊び場を作りたい」と42歳の時に地元に戻ってきた尾前さん。その時に抱いたのが、尾向地区全体を森のゆうえんちにしたいという大きな夢です。
「森のゆうえんち」は、子どもたちに学びも与えてくれます。「焼き畑」と呼ばれる伝統的農法は、戦後の拡大造林計画によるスギ・ヒノキ林への転換など、社会情勢の変化に伴って急速に衰退、現在継続して行われているのは、椎葉だけとなりました。「森のゆうえんち」では、この焼き畑を子どもたちが体験し、地元の文化を身近に感じることができます。
尾前さんの原動力は“椎葉から巣立っていく子どもたちが、再び村に戻ってきてくれる”楽しい尾向地区にしたいという強い思い。
尾前さんは子どもたちとのふれあいを通して、人と人とがつながっていくことの大切さ、手作りの面白さを伝えながら、たくましく成長する姿を見つめています。
編集後記
ディレクター:坂元伸一(宮崎放送)
「いい表情をされているなあ」番組の主人公 尾前一日出さんに初めて会った時の印象です。取材は、「ワクワク ドキドキ」の連続でした。
小学校を卒業すると親元を離れ、寮生活、下宿生活をおくる椎葉村の子どもたち。「子どもこそ、一番の宝」ということを熱く語る尾前さんは、様々な遊具を子どもたちと一緒にユーモアを交えながら、全力で作り、子どもたちのやる気スイッチを入れていきます。開放的なトイレやブランコ、ツリーハウスなどを見たときは、衝撃を受けました。「大人が真剣に作った遊具はスゴすぎる!」
私は、恥ずかしながら、幼少期に自分の力でおもちゃを作ったことがほとんどありません。取材は、「いったいどこからこんなアイデアが浮かんでくるのか?」という疑問を解消するところからスタートしました。
最終的に尾前さんは、遊具を完璧には作りません。その理由は、「おもしろくないから」…修理しながら進化させていくのだそう…なるほど!できるだけ「手間を省く」事が求められる時代。取材では、「手間をかける」ことの大切さ、そして人間の「生き方」について学ばせて頂きました。尾前さんの表情には、厳しい環境で生き抜いてきたからこその「人へのやさしさ」がにじみ出ているのだと思います。
取材は、秘境ゆえに移動がとにかく大変でした。現場まで車で4時間かかります。しかし、毎回頂く、手作りの野菜や漬物に本当に癒されました。
これからも尾前さんを追っていきます。
番組情報
尾前設計合同会社 【電話】0982-56-5530
椎葉村立尾向小学校 【電話】0982-67-5014