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嚥下食(えんげしょく)。
老化や病気が原因で、食べ物をうまく飲み込むことができない人のための食事です。
安全面が優先されるため、細かく刻まれていたり、ドロドロになっていたり、食材の原型を留めていないのがほとんど。栄養は効率的に摂取できますが〝目〟では楽しめません。50代女性は「食べる意欲がわかない」70代男性は「死んだ方がまし」と嘆きます。
そんな嚥下食を一変させる料理人がいます。山形県鶴岡市。宿泊施設の料理長を務める延味克士(えんみかつし)さん(54)。
「飲み込みとかそしゃくに難がある人は、きちんと形があるものを食べたがる傾向にあると思う。見ただけでおいしいのがわかる、そんな料理が人に〝幸福感〟を与える」
延味さんが作るのは、寿司・豚の角煮・天ぷら・たけのこ汁・スパゲティなど、飲み込みに障がいがある人なら決して口にできないものばかり。見た目は一般的な料理だが、中身は嚥下食。
介護現場からの声を、延味さんが形にし、安全性を医療目線で確認してもらう。レクチャーと試作を重ね、これまで考案した嚥下食の献立は、約20種類を数えます。調理にかかる手間と時間は、通常の倍以上。このご時世、やれ低コストだ、時短だと声高に叫ばれていますが、完全度外視。宿泊客は「生きていて良かった」と満面の笑み。そのかたわらで、涙ぐむ家族。
これからの高齢社会に求められる〝食のバリアフリー〟…嚥下食を通して〝食べる幸せ〟を見つめます。
編集後記
ディレクター:沼沢 諭(プライド・トゥ)
嚥下食(えんげしょく)を、初めて食べた時のことです。
まずは、シズル感が食欲を掻き立てます。『パクッ』 何ともいえないやさしい食感で、
舌で簡単につぶせます。『ゴクッ』 気持ちのいい程に、喉をすんなり通過。
私は思わず『幸せ』とつぶやきました。
舌と目でも楽しめる嚥下食は、海外ではほとんど浸透していません。調理にかかる手間と時間は、通常の倍以上。このご時世、やれ低コストだ、時短だと声高に叫ばれていますが完全度外視。日本人の性格と価値観から作られる〝Japan Quality〟です。
寿司、豚の角煮、天ぷら…、どれも控えめに言ってめちゃくちゃおいしいです!
余談になりますが〝嚥下食〟の嚥(えん)という字は、口と燕(つばめ)を組み合わせた不思議な字を書きます。これはツバメのひなが、大きな口を開けてエサを飲み込むことが語源になっているんだそうです。人間界には〝早飯も芸のうち〟という言葉がありますが、食事はしっかり噛んで、味わってから飲み込もう、そう思う今日この頃です。
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