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鳥取県境港市に暮らす足立摂子さん(53)は、全身の筋肉が徐々に衰えていく難病・ALS(筋委縮性側索硬化症)の患者。発症から10年、いま動かせるのは上半身が少しと手の親指くらい…24時間の介護が必要な重度の障がい者です。
摂子さんは病院や施設ではなく、在宅で生活しています。その支えになっているのが、重度障がい者のための公的介護サービス「重度訪問介護」の制度。訪問介護の介助者(ヘルパー)が長時間滞在、利用者(障がい者)のニーズにあわせた介助を行うことができるのが特徴です。この制度の利用により、障がいがあっても『在宅で家族の介護の負担を軽減しながら、住み慣れた地域で暮らす』ことが実現しやすくなります。
介助者と他愛のない話をして笑う。今日は何を食べようか考える。食事を楽しむ。ときには外出して髪を切る…そんな「普通の日々」を送ることが、病状の進行とともに自らにふりかかる身体の痛みや心の不安を和らげてくれます。
そんな暮らしのなかで摂子さんは、障がい者の立場として感じていることをオンラインで講演。同じ障がい者を勇気づけたり、介護関係者にアドバイスを送るなど「今の自分が、誰かのためにできること」にも取り組んでいます。
こうした毎日の積み重ねを、摂子さんはひとつのモットーとして掲げています。『一日一日を、“生ききる”』。
摂子さんの生活をサポートしている「重度訪問介護」は、行政や医療現場、障がいのある当事者にも制度が認知されておらず、全国的に利用が進んでいないのが現状。
そこで摂子さんは、番組の企画書を作成しました。
「自分の生活を撮影してもらうことで、重度訪問介護のことを多くの人に知ってほしい」…。介助者とどんな生活を送っているのか。重度訪問介護を利用した自立生活に導いていくれた恩人のこと。難病のなかでポジティブな考え方を教えてくれたもの。
そして、家族とのこと。
「一日一日を“生ききる”」摂子さんの姿を見つめます。
編集後記
ディレクター:八幡真和(山陰放送)
足立摂子さん自身が書かれた番組企画書が私の手元に届いたのは、1年前の2022年1月。そこには「企画意図」や「想定出演者」「視聴者ターゲット」「この番組を見ることでどんな結果が見込めるか」など、同業者の方が書いたかと思うほど見事な内容で、「重度訪問介護の存在について、多くの人に知ってもらいたい」という、強い想いが伝わってきました。さらに心を揺さぶられたのは、これも彼女自身が考えた「生ききる」という、シンプルで力強い番組タイトル。一体どんな方なんだろうという興味から番組制作は始まりました。
お会いした摂子さんは、例えるなら「縁側にやさしく注ぐポカポカのおひさま」のような人でした。隙あらば冗談を言おうとする。介助者に対しても、我々撮影スタッフに対しても、いつも場を和ませようとする。そんな気遣いにあふれた女性でした。
ALSという先の見えない難病にありながらも、決して卑屈にならず、日々を穏やかに暮らす。ベッドの上から動けなくても、オンライン講演で誰かを勇気づけたり、電話やメールで介護関係者の相談にのったりする。そんな日々の裏には、進行していく病への恐怖もあるはずです。ここに至るまでの自身の葛藤や、ご家族とのことなど、たくさんの悩みもあったでしょう。
そうした一つ一つを受け入れながら、いまを「生ききる」摂子さんの姿を、視聴者の皆さんに少しでもお伝えできたら。そして、私たち一人一人にとっての「生ききる」を考えるきっかけになって頂ければと思います。
追伸
番組をご覧になられた方へ。「重度訪問介護」について、存在を知らない重度障がい者の当事者の方や関係者の方がおられましたら、ぜひおしえてあげてください。
番組情報
*重度訪問介護についての問合せ
全国障害者介護保障協議会ホームページ(全国障害者介護制度情報)
http://www.kaigoseido.net/