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北海道旭川市で林業を営む陣内(じんのうち)雄(たけし)さんは、「木こりシンガー」。作曲家の葉加瀬太郎さんは、東京芸術大学の1年後輩。共にライブをした仲間です。陣内さんが作詞作曲した「チェンソー・マン」は、森での仕事を謳った、いわば林業讃歌。去年行われた野外ライブでも熱唱し、聴衆から大きな拍手を浴びました。
陣内さんは「森に優しい林業」を目指しています。切るのは「台風でケガをした」など、森での生存競争に敗れた木。間伐した木を運び出す道を作る際も、「うーん。ここは根っこがあるから避けたいなあ」と悩みながらルートを決めます。道はできるだけ細く、森へのダメージは極力少なく…陣内さんの丁寧な道づくりに、管理を依頼する山主も信頼を寄せます。
林業と音楽に加えて、2年前からは建築の仕事も…。去年は、森で間伐した木を製材して、メルヘンチックな山小屋風の家を建てました。東京に住む人が別荘として利用しています。「山で見たらショボイ木でも、家は十分建てられる。何でも使い方。木こりの発想で建てた家です」。陣内さんはこのほか、旭川市内の保育園の依頼で、園庭に木製の遊具も制作中。
陣内さんには19歳になる一人息子がいますが、高校を卒業しても就職せず、部屋にとじこもってゲームばかり。林業にも関心を示しません。秋のある日、滅多に部屋から出ない息子が家の外へ…その理由は…?
12月21日。陣内さんの55歳の誕生日。「これからは若い人に伝えていく仕事をしたい」。
林業、音楽、そして森を生かした建築…木こりシンガーの1年を見つめます。
編集後記
ディレクター:河野啓(北海道放送)
驚きました…風貌にも、歌声にも、そして森への思いにも。
農業や漁業は何度も取材してきましたが、林業の世界は知りませんでした。「人間の都合で自然を壊す人」と、マイナス・イメージさえ抱いていました。猛省です。
陣内雄さんの目指す林業は、まったく逆の「森に優しい林業」。
どの木を切るか、どの方向に木を切り倒すか、切った木を運び出す「道」はどんなルートで作るか…分厚いマニュアル本ができそうなほどの「技と哲学」がありました。
「こういう森の管理を100年、200年、300年続けていたら、知らない人は『わあ、ステキな原生林!』て、言うんじゃないかな」と笑った後、陣内さんはこう続けました。
「100年後、俺はこの世にいないけど、こうして森と道を残しておけば、わかる人にはわかる。きっと引き継いでくれる」
仕事への誇りとはこういうものだ、と私は深く頷きました。
日本を含む各国のリーダーたちが「100年後ファースト」で行動していたなら、世界はこんなに傷ついてはいなかったと思います。
取材中うれしかったのは、一人息子の森羅さんが森を散策した秋の1日。自分の部屋に引きこもって外に出ることなどほとんどなかったので、私たちスタッフも驚きました。林業従事者の息子が「虫が嫌い」…私はこうした意外性に、人間の愛おしさを感じます。
55歳になって「ゴー!ゴー!」とおやじギャグをかます「木こりシンガー」のこれからの人生にも注目です。
♪ チェンソーがうなる 山にこだまする
森に光が差す 静けさが戻る
番組をご覧頂いた方はきっと、放送が終わってもしばらくは、
陣内さんの歌う「チェンソー・マン」が頭の中で鳴り響いていることでしょう。
番組情報
陣内雄さん ホームページ
profile – 陣内雄 – Takeshi Jinnouchi (jinnyama.world)