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地元水産加工会社とコラボし、一昨年の発売以来20万個が売れるヒットを記録した「牛たんデミグラスソース煮込み缶詰」。宮城県で地元食品メーカーや生産者と一緒に商品開発を行い、次々と新商品を生み出しているのが「かね久」の社長・遠藤伸太郎さん(50)。
宮城県仙台市にある「かね久」は、昭和20年創業のパン粉製造会社。8年前に遠藤さんが会社を引き継いでからは食品卸、商品開発にまで事業を拡大、大きな成長を遂げている企業として注目されています。その遠藤さんが中心となって、地元メーカーと一緒に立ち上げたのが「食のみやぎ応援団」。去年1月には持続的な社会実現を目指す「SDGs宣言」を行い、これまで廃棄されていた食材の新たな価値を見つけ、新商品開発などの活動を行っています。
遠藤さんは妻と3人の娘の5人家族。妻・桐(ひさ)恵(え)さん(50)は中学時代からの幼馴染で、結婚から20年以上たった今も、遠藤さんを「シンタ君」と呼びます。そして遠藤さんは外でエネルギッシュに働く「社長」の顔とは別に、家庭では娘たちにとても甘い「シンタ君」の表情を見せます。
遠藤さんが「みんなで一緒になって、宮城の食材を全国にPRする」と決意したのは、2011年3月の東日本大震災がきっかけでした。遠藤さんの自宅は生まれ育った宮城県沿岸部の石巻市にあり、津波が天井にまで達する大きな被害を受けました。家族は全員無事だったものの、バラバラに避難したため、一時はお互いの安否が分からない状況に…。この震災が、家族の人生を一変させることになりました。
「宮城の食材で全国、全世界の人とつながろう」…強い信念を持って突き進む遠藤さん、そしてそれを誰よりも理解する妻と娘たち…「おいしい宮城」を届けようと奮闘する「シンタ」と家族の物語です。
編集後記
ディレクター:平沼敦子(東北放送)
初めて遠藤伸太郎さんにお会いしたのは去年5月。何か商品を作る際にできる端材だったり、規格外の食材を活用して、「こんなの作ろうとしてさ」「あといま考えてて面白そうなのは…」と、新商品のアイデアを生き生きと話す様子に、圧倒されたのを覚えています。そうしたこともあって、最初は遠藤社長が10以上は同時並行で進めているという新商品を開発する過程を追いかけようと、数カ月間取材を進めていました。
その中で普段の様子も知りたいと訪れたのが、遠藤さんの自宅です。「シンタ君、シンタ君」と呼び、幼馴染の夫のことが大好きな妻・桐恵(ひさえ)さん。「父親が電話をしょっちゅうかけてくるのが困る」と話しつつも、本心では父を尊敬している娘たち。そして何よりも普段会社で見せる「仕事が出来る社長」の顔とは違い、ジャージ姿で可愛い娘たちにほほを緩めっぱなしの遠藤さんの表情…。笑顔が絶えない家族のやり取りがとても面白く、当初の企画を大きく変え、遠藤さん一家の家族の物語を描こうと決めました。
遠藤さんは2011年の東日本大震災で家を失い、近所に住み家族同様に可愛がっていた甥と姪を亡くしました。その体験を公の場で語ることは、ほとんどありません。家族の間でも当時のことを話すことは避けていたといいます。震災からまもなく11年が経ちますが、あの時被災地にいた人たちの当時の状況は様々、どんな影響を受け、この11年どう過ごしてきたのかも様々です。今回の取材では、小学生や中学生だった娘たちが、震災当時は両親には言えなかったけれどもこんなことを思っていた、と語る場面が印象的でした。語られてこなかった体験や思いがまだまだあり、地元局としてまだまだやるべきことがある。思いがけず気づかせてくれた、遠藤さん一家との出会いに感謝しています。
番組情報
株式会社 かね久
【HP】https://kanekyu-panko.com/