#287 地球とつながる男　ミシュランシェフの給食革命

福岡市内に時折キッチンカーで出没する中野秀明さん。ミシュランガイドで4度ビブグルマンの栄誉に輝いた人気シェフの料理が気軽に食べられる、とファンが押し寄せます。目玉は自然農法で栽培した小麦粉や野菜で作るピザ。「農薬を使わない食材で料理を続けるには、地方のほうがやりやすい」と考え、２０１６年、福岡県にやってきました。自らも野菜を育て、自然のパワーを余すことなく料理に取り入れるのが信条。そんな気の遠くなるような作業は、お店経営では難しい、と店をたたみ、現在はキッチンカーを中心に活動中。企業や団体の依頼を受け、食品開発も手掛けています。

宮城県の農業高校を卒業した中野シェフ。「農薬を使わない食材」の究極として、天草市の無人島で放置された果樹園に自生する甘夏の美味しさに目覚めたといいます。以来、地元の方の協力で畑を開墾し農作物を栽培、「食のおいしさを伝えたい」と子どもたちを島に招待し、カレー作りを楽しんでいます。また自宅では子ども向けに、生ハム作り教室も開催するなど、食育にも熱心。

学生時代はバンドのヴォーカルで目立ちたがり屋…そんな中野シェフを支えるのは娘の由(ゆ)葵(うき)さん（２４）。東京でパン職人として働いていましたが、毎日大量のパンが廃棄処分されている現実を目の当たりにし、父親の元にやって来ました。両親の離婚で父とは離れ離れでしたが、息もぴったりに料理を作る由葵さん。仕事では厳しく叱られながらも、二人で飲みに行ったり、カラオケハウスでともに熱唱する、仲良し親子だといいます。

食育に熱心な中野シェフが最も注目しているのが学校給食の改善。「自分の孫には安全でおいしい給食を食べてほしい」…そんな中野シェフの元には、全国の有志から「改善給食のメニュー作り」の依頼が舞い込みます。北海道・十勝地方では、自然農法の農家などの有志が給食レシピの作成を依頼。中野さんが提案したのは、農薬を使わない野菜やスパイスを使ったカレーライス。このレシピをもとに今後も活動を広げていくといいます。

一方福岡では、無人島で食べたカレーに魅せられた中学3年生の西嶋由芽さんが「給食改善依頼」の署名活動を開始。両親の考えで幼いころからこだわりの食材になじんできた由芽さんは「妹世代のためにもぜひ実現させたい」と意気込みます。

「今は種まきの時期。子どもたちの１０年後、２０年後のために、しっかりと活動していく」…熱き思いを抱く中野シェフの日常を見つめます。