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山陰の小京都として知られる島根県津和野町。この町には、江戸時代から飲み続けられているお茶があります。それが、マメ科の植物・カワラケツメイから作られる「ざら茶」。津和野町では昔、カワラケツメイが一般家庭でも栽培されていたため、町の人は「緑茶や煎茶よりもざら茶の方が有名だ」と話します。
このざら茶を販売しているのが、創業90年の香味園上領茶舗。「お茶の香りと味、そしてその空間を届ける」がお店のテーマです。父の死をきっかけに、この茶舗を祖父母から受け継いだ夫婦が、現在ざら茶を売り込んでいます。夫婦は継ぐまでお茶の知識はなく、独学で味や効能について勉強してきました。「ざら茶を後世に伝えるために、新たなことに取り組まなければならない」。こう話すのは、孫のリコッタ瑠美さんと、フランス人の夫アドリエンさん。お互いを「瑠美」「アディー」と呼び合っています。夫婦はざら茶の売り上げが落ち込んでいる今のままではだめだと、地域を巻き込みながら、日々ざら茶を普及させるため新商品の開発に励んでいます。茶舗の50年ぶりの新商品となった「ざら茶」とバラをブレンドしたローズブレンドの人気は上々。さらに、栗ようかんが名物の店舗とのコラボ商品「ざら茶入り栗ようかん」を販売しようとする取り組みも始めています。今は見守る立場にいる祖父の清一さんは、厳しい経営状況の中で継いだ孫夫婦に心配な気持ちを抱きつつも、ざら茶を売り込んでいる姿を見て安心している様子。
新型コロナウイルスによる影響を受けながらも、「リモートお茶会」などで乗り越えようとする、夫婦の飽くなき挑戦は止まりません。
まちの「ざら茶」を残すために今何ができるか‥‥。ざら茶継承に情熱を燃やす夫婦の物語です。
編集後記
ディレクター:大谷公二(日本海テレビ)
夫婦が営む香味園に取材に行くと、夫婦から「取材の休憩に」と出されたお茶。すすっと飲めば、香ばしさの後に押し寄せてくる爽やかな風味。「日本茶?いやハーブディー?すごく革新的だ!」それは煎茶にハーブのリンデンなどをブレンドしたものだったのですが、私は知らない世界を知れた、そんな気がしました。夫婦は主力商品のざら茶をベースとしたブレンド茶の販売や、オリジナルのブレンド茶が作れるワークショップを開催しています。これらの取り組みはすべて、若者にお茶に興味を持ってもらうため。取材をすると、茶舗は昔ながらの感じなのに、若い世代の来店客もいて、着実に夫婦の思いが届いていると感じました。
「お茶を入れる時間、空間は現代人に必要なことだと思う」取材中、主人公の瑠美さんが私にこう話しました。瑠美さん曰く、「お茶を入れる時間は時が止まる。お茶は忙しい人を止まらせて、そこで落ち着かせることができる」のだそうです。大阪で生まれ育ち、大手企業で働いていたからこそ、お茶の良さを知れたということです。私は人生の中でお茶を入れることは、あまりなかったのですが、瑠美さんの話を聞きハッとしました。お茶は飲むものだけでなく、時間を作ってくれるものだと気づきました。
全国的に「ざら茶」はまだまだマイナーなお茶ですが、夫婦の活動次第では有名になり得ると思っています。実際、夫婦の活動を見て、お茶に興味を持ち、取材後もお茶を入れて飲んでいるからです。「ざら茶」のパッケージが津和野町以外でも目にする日はそう遠くないかもしれません。
番組情報
香味園上領茶舗
【住所】〒699-5605 島根県鹿足郡津和野町後田ロ519
【電話】0856-72-0266
【ホームページ】https://www.tsuwano-zaracha.com/