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日本海に突き出た秋田県の男鹿半島。番組の舞台は港町の小さな寺、雲昌寺です。決して交通アクセスの良い場所ではありませんが、6月から7月にかけて境内一面に青いアジサイが咲く様子がSNSなどで話題になり、今や海外からも人が訪れるようになりました。寺ではアジサイのシーズン以外の取り組みとして、去年からアジサイが枯れた後に摘んで染め、商品に加工しています。仕掛け人は寺の副住職、古仲宗雲さん(50)です。
雲昌寺がある町は、かつてハタハタ漁で栄えた秋田県屈指の港町でした。しかし昭和40年代後半をピークに、その後はハタハタの漁獲量が低迷し、町のメイン通りはすっかり寂れています。農林水産業の衰退とともに進む過疎と高齢化は、特に地方では全国共通の現象です。
雲昌寺の副住職、古仲宗雲さんがアジサイの栽培や商品づくりに尽力する原動力は、生まれ育った港町に活気を取り戻したいという強い思い。活動はまだまだ手探りですが、古仲さんの周りでは確実に笑顔がうまれています。
番組の制作にあたっては、季節によって表情を変える境内の様子や、咲いては枯れ、春になると再び芽をつけるアジサイなど、風景や植物を通した“時間軸”も意識しました。
自然豊かな寺の厳かな雰囲気や町の灯りを消すまいと奮闘する古仲さんの姿はもちろん、その精神が次の世代に受け継がれていく様子も合わせてご覧いただけると幸いです。
編集後記
ディレクター: 齊藤 弥(秋田放送)
今回番組を制作した「雲昌寺のアジサイ」は、秋田県の一大観光スポットです。
たった1株から挿し木を繰り返して1500株まで増やした背景を、番組の主人公、古仲宗雲さんに直接お会いして聞いたところ、どうやら地域の過疎が背景にあることが分かりました。しかも秋田県の魚、ハタハタの不漁も一因の過疎化。農林水産業の衰退と過疎に関心があった私は、ぜひとも番組を制作したいと考え、今回企画した次第です。
実は取材には大変苦労しました。大きく影響したのは新型コロナウイルスです。私たち取材班は、取材対象者とどのぐらいの距離を保って撮影すればよいか…被写体の表情がマスクで見えないのにドキュメンタリーなど作ることができるのか…アジサイの拝観も、境内に観光客を受け入れるかどうかがなかなか決まりません。刻々と変わる新型コロナウイルスの感染拡大状況や国・自治体の対応を見ながら、当初想定していた番組構成を大幅に変えながらの取材となりました。一方で主人公の古仲宗雲さんの長男が東京の大学に戻れずにいたため、番組構成に親子のやり取りを組み込むなど、結果として当初想定していなかったシーンも撮ることができました。
番組では前面に出しませんでしたが、和尚である古仲さんの言葉や行動には諸行無常や輪廻転生といった仏教の世界観がにじみ出ています。栄えては元気を失う港町。枯れた花を染めて新たな命を吹き込む。可憐に咲くアジサイがシーズンを過ぎると枯れ、春には再び芽吹くように、元気を失った港町が再び活気を取り戻す日は来るのか。今後も古仲さんの活動に注目したいと考えています。
番組情報
雲昌寺 【住所】〒010-0683 秋田県男鹿市北浦北浦字北浦57
男鹿市観光協会 【電話】0185-24-4700