静岡県浜松市の「モリロボ」は、調理ロボットの企画・製造・販売を行うベンチャー企業。モリロボの社長 森 啓史さん（42）は浜松市内の大手自動車メーカーで生産管理の仕事をしていましたが２年前に独立し、現在はクレープの生地を自動で焼き上げる「クレープロボットQ」の製造に力を注いでいます。ただ一人の社員の船生洋平さん（33）は森さんの前の会社の後輩、転職しようという矢先に森さんから誘いがありました。でもなぜ「クレープロボット」なのだろう？その理由を探ってみました。
昭和５２年に佐賀県の呉服店の三男として生まれた森さんは、子供の頃 昆虫や動物が大好きな少し引っ込み思案の少年でした。兄と見た映画「トップガン」の影響でパイロットに憧れましたが、視力の低下で断念。航空工学専門の技術者を志したものの受験に失敗、学科違いの工業大学で機械づくりの基本を学びます。大学時代にアルバイトしたのがクレープ屋さん。その時に、もっと効率が上がる様自動化すればいいのにと考えます。
大学卒業後、浜松市の大手自動車メーカーに就職。製造ラインの効率化を進める生産管理の部署で１８年間技術を研鑽しますが、その間にも「クレープロボット」の事が頭を離れません。出した結論が「このまま中途半端に仕事をしていたら、クレープロボットは完成しない」会社を退社「モリロボ」を設立しました。
モリロボが作るクレープロボットは実にユニーク。生地を焼く部分のシステムは「レコードプレーヤー」、焼いた生地を取り出す部分は「LDプレーヤー」の技術が応用されています。どうしてこのような古い技術を使うのか？話を聞いてみると「今のなんでもセンサーとかに頼らずに、カラクリでやってしまおうという昔の人たちのアイデアがすごく詰ってて、そういうのをいま使わない手はないなって思って。」「人工知能」いわゆる「ＡＩ」のテクノロジーが進むいま、森さんが目を付けたのは「枯れた技術」いわゆる「ローテク」だったのです。しかし、このクレープロボットには大きな課題がありました。それは一般の小売店などに１台も売れていない事。今年６月には父親になった森さんの正念場が訪れます。
2019年、モリロボは東京で開催されたイベントに出展、ここで登場させたのが3色の生地が1枚で焼ける「レインボークレープ」。見た目の珍しさもあり２日間で約1000人分のクレープを焼き上げました。今月、イベントで自信をつけた森さんはついに「クレープロボットQ」の１号機を納品することに。場所は福岡市天神のショッピングタウン。果たして１号機は無事に納品されるのでしょうか？そんな森さんの将来の夢は「南インド」の家庭料理「ドーサ」をこの機械で焼く事。「果たしてお味の方は？」
編集後記
ディレクター：土屋和明（エスビーエスメディアビジョン）
ベンチャー企業のモノ作りに対する姿勢を垣間見た取材でした。㈱モリロボは静岡県の西部地方、浜松市に事務所を構えている、たった2人だけのロボットメーカー。ロボットと言えば「ＡＩ」等の技術を使い、人間に代わって物を作り出したり考えたりするイメージだと思いますが、モリロボは違います。先進技術は使わず、古い「枯れた技術」を利用して新しいモノを作り出しています。「クレープロボットQ」は、そんなモリロボが作り出したクレープ生地を自動で焼いてくれるロボット。機械の仕組みに利用されたのは、レコードプレーヤーとＬＤプレーヤーの技術。回るターンテーブルの上で生地を焼き、焼き上がるとＬＤプレーヤーの盤が飛び出す仕組みで生地を回収します。いま風に言えば「超ローテク」。でもなぜクレープロボットだったのか？社長の森さんに尋ねると「大学時代にクレープ屋さんでアルバイトしていて、こんなものがったらいいのにと思ったから。」単純な発想が、モリロボにはピッタリマッチしているのかもしれません。
森さんをサポートしているのが奥様の彩さん。我々取材班が「結婚僅か半年で、一流企業を辞めて起業をすることに不安は？」と聞くと「反対はしませんでした！」と意外な回答が！
みんなを笑顔に変えていくクレープロボットを生み出した森さんの思いは果たしてどこに着地点を持っているのでしょう。「南インドにあるドーサという家庭料理は日本のごはんと一緒。日本の各家庭にある炊飯器のような調理器具ができれば、南インドの約４億人のマーケットに結び付くのかもしれない。」森さんの野望はまだまだ広がりつつあります。いつかその日が来たら…また取材に出かけたいと思います。
