#82 赤い果実は町の宝~沖縄県本部町のアセローラ~

2017年2月19日(日)(テレビ朝日 放送) 琉球放送制作  協力 文部科学省/独立行政法人 中小企業基盤整備機構

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沖縄県・本島北部の本部町で、今注目されているのが熱帯果樹「アセローラ」果実の加工から販売までを手掛ける産業だ。アセローラ農家が繊細で小さな果実を一つひとつ丁寧に収獲する。その果実を農家から集荷するのが、拠点企業の農業生産法人 株式会社アセローラフレッシュだ。社長の並里哲子さん(59)と息子で専務の並里康次郎さん(28)を中心とした9名のスタッフが、選別・加工・販売まで全てを手掛けている。日持ちがしないアセローラは、その味を保つためピューレに加工されて飲料や菓子などの原料となることがほとんどだ。

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おととし、このアセローラフレッシュが販売した氷のスイーツ「アセローラフローズン」が、全国規模の物産展で「日本一のおやつ」に選ばれたことをきっかけに、沖縄のアセローラは一気に全国的な知名度を得た。今ではアセローラ目当てに本部町を訪れる観光客も増えている。しかし、ここに至るまでの約30年の道のりは決して平坦ではなかった。

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本部町でアセローラ産業の基礎を作ったのは、哲子社長の夫でアセローラフレッシュの創業者・並里康文さん。その熱意と経営感覚で、農家にアセローラ栽培への転換を訴えた。大手メーカー、ニチレイによるアセロラ飲料の発売も追い風となり、徐々に協働する農家も増えていった。地元企業の応援も得られるようになり、これからという矢先、創業者・康文さんが50歳の若さで他界する。夫を亡くし失意の中にあった哲子さんを奮起させたのは、待ったがきかないアセローラの収穫作業だった。

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夫の後を継いだ哲子社長を応援するように、アセローラ産業を支援する企業が増えていく。アセローラを原料に化粧品やサプリメントを開発した地元の企業「やんばる彩葉あせろら屋」。アセローラ商品を沖縄県外で販売する流通大手「イオン」。昨年には、その流通大手「イオン」と沖縄のビール会社「オリオンビール」が共同で、沖縄のアセローラを使用した発泡酒を開発・全国販売するに至った。

並里康文さんが、町に産業を生み出したいと夢を抱いてから約30年。全国から注目を集めるようになった本部町のアセローラ産業が抱える課題は「生産量の拡大」だ。そんな中、アセローラに訪れた新たな展開とは…。

編集後記

ディレクター:後藤 政司(琉球放送)

今まで続けてきたことを変える。それは、人間にとって、とても厳しいことです。出来れば何も苦労せず、新しいことを学ぶこともなく、今までと同じペースで、平穏に一生を終えたい。世のほとんどの人は、それが生きる本音ではないでしょうか?

1982年、大学院を卒業したばかりの若者…並里康文さんと哲子さんは、地元の農家を訪ね「アセローラ栽培」への取り組みを訴えました。成功するかわからない、熱帯果樹への挑戦。農家の皆さんは、さぞかし困惑し憤慨したことでしょう。「今続けている作物では将来性が無いから、アセローラ栽培を始めませんか?」と説得されるわけですから。行く家行く家で断られたり、話も聞いてもらえないような状況が続く中、康文さんと哲子さんは7年かけて約200軒の農家を訪ね歩き、1989年、理解してくれた8軒の農家で生産者団体「熱帯果樹研究会」が立ち上がりました。
あれから28年…。今や、研究会には31軒の農家が加盟しています。思えば、おととし「アセローラフローズン」が日本一に輝くことができたのも、最初の8軒の農家が勇気をもってアセローラ栽培に飛び込んでくれたからこそなんだと思います。

本部町には、今回番組で取り上げたアセローラフレッシュをはじめ、5つの会社がアセローラ産業に関わっています。放送には乗せていませんが、哲子社長はインタビューの中で「競合が出てきてくれることは嬉しいこと」という話をなさっていました。それは、アセローラに関わる人たちがもっと増えて欲しい、という想いからです。現在、沖縄でアセローラ栽培に取り組んでいる自治体は、本部町と糸満市だけ。康文さんの夢は、沖縄全体にアセローラ産業が広がっていくことなので、その夢の実現にはまだまだ遠い道のりが待っています。そのためには、まず、地元・本部町でアセローラ農家とアセローラを取り扱う企業を増やし、実績を作ることが何より必要です。おととし、日本一のおやつに輝いたことも、発泡酒を作って全国販売したことも、スーパーフードを開発することも、そのきっかけにしか過ぎません。30年かかってようやくスタートラインに立ったのです。そして、まだ「農家の経験頼り」になっているアセローラ栽培技術を「最低ライン収獲できる生産マニュアル」のような形で農学的に確立させ、新規の農家を増やし易くする環境づくりが、今、アセローラ産業に課せられた大きな課題です。

沖縄でのアセローラ栽培は、台風との闘いや細かい手作業はありますが、あまり力仕事が必要ありません。ぜひ、沖縄移住を考えている方、農業への転職を考えている方、アセローラ栽培をぜひ選択肢としてご検討ください!

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