長崎県の南部、島原半島の手延べそうめんは370年の歴史がある。

殿村高平さん(48)は、この町にある手延べそうめんの会社、一高本舗(いちこうほんぽ・長崎県南島原市)の社長だ。夏のイメージが強いそうめん。また、長崎県はそうめんの生産量では全国2位で、全国シェアのおよそ3割を占めている。しかし、知名度が低い。これを何とかしたいと、殿村さんは立ち上がった。最初のチャレンジは8年前。その名も”そうめんカフェ”をオープン。そうめんを使った独創的な創作メニューを出して人気を呼んでいる。
また、4年前に地元の島原農業高校の生徒と共同で開発した「スープほうれん草めん」。これが、第62回日本学校農業クラブ全国大会で最優秀賞を受賞。その後シリーズ化し、企画はヒット。これらを開発した農高の卒業生を採用し、地域の伝統を守っている会社として評価を受け、2013年には『がんばる中小企業300社』にも選定されている。
殿村さんが、今取り組むのはアスリートの”補食”だ。練習や試合の前後に必要な栄養素やエネルギーを補う食事、これが補食だ。これまでうどんやおにぎりなどが定番だったが、そうめんはご飯とほぼ同じエネルギー量でしかも、ご飯より消化が早いし、調理が簡単。
殿村さんは、まずは、この夏、地元の3つの高校のラグビー部に提供。同時に、全国のラグビースクールや中高のラグビー部にそうめんを捕食として試してみたはどうかと声をかけた。今では、大阪の常翔啓光学園高校や、帝京大学のラグビー部もそうめんを捕食として試してみることになった。
そんな殿村さんに、イタリアのデザイン会社から連絡が入った。高級車をはじめ、鉄道車両、建築、インテリアのデザインなどを手掛けている100年以上の歴史がある会社だ。イタリアでのイベントでそうめんを提供してほしいというものだ。そのデザイン会社のCEOが日本で、実際に、一高本舗のそうめんを食べ感激した体験があるのだ。
殿村社長の次なる一手は『ライト・ラーメン』。これはラーメンの麺ではなく、まったくのそうめん。ラーメンの世界的な知名度を利用し、そうめん料理のヘルシーさを世界に売り込もうとしているのだ。
夢は、4年後のラグビーワールドカップ2019日本大会をきっかけに、世界のアスリートにそうめんを食べてもらうこと。
そうめんの可能性を信じ、日々奮闘する殿村さんに密着した。
編集後記
ディレクター:中原 暎二(長崎放送)
あえて、この季節に“そうめん”なんです。主人公の殿村高平さん(48)は、長崎県南島原市にある従業員5人の小さなそうめん屋さん。その殿村さんの思いは2つ。1年を通して食べて欲しい。もう一つは、長崎県の手延べそうめんの生産量は、全国2位なのに知名度がとても低い。それをなんとかしたい、というものです。
斬新なそうめん料理を出す“そうめんカフェ”のオープン。“冬もそうめん”をテーマにして、地元の高校生と共同開発した『スープそうめん』シリーズ。その後、開発した高校生を後継者育成のために、卒業後、自社で採用。また、スポーツイベントを主催し、そうめん普及と青少年の健全育成に尽力。これらの活動を通して、2年前、経済産業省の『がんばる中小企業300社』に選定されています。
この夏から、殿村さんは少し発想を変えました。これまで、手延べそうめんの商品開発が中心でした。しかし、これでは中々広がらない。そこで注目したのが、そうめんを食べる“状況を作り出す”ことでした。
それが、アスリートたちの『補食』。練習や試合の前後にエネルギーや栄養補給の目的でとるのが補食です。殿村さんが高校生の頃にラグビーをやっていたということもあって、特にラグビースクールや中高のラグビー部に広めています。実は、これが大好評。おにぎりやうどんと違って消化も早く、同じくらいのカロリーが取れる。大学選手権6連覇の帝京大学もそうめんを補食として取り入れています。取材中、何度か、補食のそうめんをいただきましたが、どれもとても美味しいモノでした。失礼ですが、「こんなにそうめんって美味しかったっけ!?」とスタッフと何度も言っていました。
殿村さんは、今後は、海外へ販路を拡大したいと考えています。そのきっかけが、来年の春、イタリア開催されるイベントに参加して、そうめん料理を振る舞って欲しいという依頼です。ミラノのデザイン会社の社長が、殿村さんのそうめんを日本で食べていたく気に入ったためです。そうめんが“パスタ”としてもいける、というのです。
今後注目しているのは、ラグビーワールドカップ2019日本大会と東京オリンピック。世界から日本に人が集まり、多くのアスリートが日本の食を経験します。
これからもアスリートに補食として食べてもらい、そうめんを常識にすること。そして、ラグビーの日本代表にも是非食べてもらうこと。これが今後の目標です。